民泊はニューエコノミーの旗手か破壊者か!? 民泊の光と影
Jul 29, 2017
人生はわくわくとドキドキで、できている! 個人投資家やんつです。
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住宅宿泊事業法(民泊新法)が2017年6月9日、国会で可決成立しました。
わたしの周りにも民泊をやっている友人がたくさんいます。不動産投資家なら関心が高いテーマです。色々と賛否もありますが、今一度「民泊の光と影」について考えてみました。
■ 民泊のいま
長らく800万人程度で推移してきた訪日外国人観光客数ですが、2013年に1000万人を突破すると急激にその数を伸ばしています。2016年には政府の当初目標を上回る2400万人を達成しました。数年前には考えられなかった数字です。
政府もこれを受けて、目標を大幅に上方修正し、2020年までに4000万人、2030年に6000万人を目指すとしています。タイの2988万人、香港の2668万人(各2015年)を一気に抜き去る目論見です。日本経済が停滞する中、観光業は数少ない有望産業といえるかもしれません。
Airbnbの2017年4月24日「日本における短期賃貸に関する活動レポート」によれば2016年の宿泊人数はなんと370万人です。
これは全観光客数の15%を占める大きな数字で、いつの間にこれだけの存在になっていたのか驚きです。普段あまりAirbnbの凄さを感じないのは、海外からの宿泊客が93%を占めており、国内での利用者が少ないからでしょう。
標準的なホストの年間貸出回数は89泊で、平均宿泊日数は3.4泊、直接的経済効果は4061億円としています。この数字はホテル御三家のホテルオークラ、ニューオータニ、帝国ホテルの売上合計の約2倍という規模で、もはや国内でもトップクラスの宿泊業者といえます。
2016年滞在上位10都市をみると、大阪、東京、福岡、奈良、広島、沖縄、徳島、群馬、高知、栃木であり、地方都市への拡がりを感じさせます。常連の京都は圏外になりましたが、これは供給不足が原因ではないかと思います。
■ 民泊はデジタル・ディスラプター(既存業界の破壊者)か
成長する民泊ですが、課題も数多く指摘されています。
2017年3月17日、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の招聘で、フランスのホテル&レストラン業界団体を招き「民泊の不都合な真実 ~世界最大の観光大国フランスで起こっていること~」と題した緊急フォーラムが都内で開催されました。
年間約8000万人のインバウンドを誇るフランスで、民泊が多くの脱税を生み、業界の雇用を奪い、普通にパリに住む権利を破壊したことが報告されたのです。
アパートの所有者がより利益の上がる民泊事業に物件を回したため、家賃相場が急上昇。賃貸契約の約25%が契約更新されず、それまでの住人は高額な値上げを受け入れるか、郊外への引っ越しを余儀なくされたそうです。
招聘されたディディエ・シュネ氏は語っています。
「日本はまだ今なら間に合う、フランスと同じ轍は踏まないで下さい。良識ある日本の皆様のご検討をお祈りしております」
非常に重い発言です。関係者は真摯に受け止める必要があります。
Airbnbはシェアリングエコノミーとも呼ばれ、空いているものを有効利用する新しい経済活動ですが、一方で既存業界を破壊するデジタル・ディスラプター(デジタル時代の創造的破壊者)でもあることが示されたのです。
シェアリングエコノミーのディスラプターとしては配車サービスのUberも有名です。同じように世界中を席巻していますが、日本と中国ではそれほど普及していません。
日本では法規制の壁もありますが、日本交通によるアプリ「全国タクシー配車」が先行しており、すでに一定のシェアを確保しています。全国47都道府県でタクシー会社135グループが参加、約2万3000台が配車可能です。
5~6年前に日本交通さんの発表会に参加したことがあります。全国で登録台数が1万台を超えた頃で、米国ではUberが話題になっていましたが、日本には未上陸でした。
講演の中で、
「『黒船襲来』に備えなければならない。日本のタクシー業界は身内で争っている場合ではない。」と力説されていたのが印象的でした。既存業界が切磋琢磨し、スマホ時代に立派に対応した例といえます。
■ 民泊新法
今回制定された民泊新法の概要は、
・都道府県知事への届出制
・年間提供日数の上限は180日
・条例によって地域の実情を反映する
・事業の適正な遂行のための各措置の義務化
(衛生・安全の確保、名簿の常備、周辺からの苦情対応、定期的な報告など)
・家主不在型の管理委託の義務化
となっています。
事業の適正な遂行のための各措置が盛り込まれ、正常な業界育成を目指す内容です。
問題はホストの多くが小規模な施設提供者のため物件数が約5万件にも上り、どこまで実態を把握、統制できるかが不透明なことです。宿泊客へのマナー徹底は不十分であり、周辺住民への対応窓口を持っている業者はありません。
筆者の周りでも既にAirbnbを始めている人は多いのですが、管理会社は玉石混淆といいます。業界自体がまだまだ未成熟なのです。
民泊新法を順守すれば体制も必要になり運営コストは上昇するため、管理会社の淘汰が進むものと予想されます。アパートオーナーとしても、順法の中で取り組むことが求められそうです。
■ 住環境や賃貸業への影響
賃貸業がビジネスである以上、一般賃貸に比べて利益が2倍以上になるといわれる民泊は大家にとって魅力です。増大する空き家の活用としても有効で、有力な選択肢であることは間違いありません。
ただ自分のアパートを闇雲に民泊にするのではなく、一般居住用とを分離するなど、節度ある態度が求められます。
利益追求だけではなく、近隣との調和のとれた賃貸業を目指すべきでしょう。戸建て、もしくは民泊専用アパートに限定する、などの自制が必要かもしれません。
管理会社の体制が整備されるまでは、騒音やマナー問題など住環境への影響は出そうです。特に観光地に隣接する地区は注意が必要で、自治体の責任も重いものがあります。アパートの民泊への転用に一定の制限を設けるなどの条例が出ることもありそうです。
■ まとめ
住環境を破壊するものとして民泊を廃絶しようとする意見もありますが、安価で特徴のある宿泊施設にニーズがある以上、いたずらな反対は得策ではないと考えます。少子化対策や経済活性化のため観光立国が避けられないとすれば、むしろ積極的に健全な成長を目指す方が賢明です。
古くはCDがアナログレコードを駆逐しました。
スマホの高機能化で安価なデジカメを代替しました。
百貨店はSPAや専門店の台頭で歴史的役割を終えそうです。
EVは既存の自動車産業を根底から変えようとしています。
イノベーションを伴う商品の成長ステップは、
1)最初の普及、拡大
2)事故、問題の発生
3)対策・法整備
4)健全なる発展
という順になることが予想されます。
ニューエコノミーで既存業界のある部分はなくなりますが、最終的には共存しながら新しい経済圏を生み出しています。既存の価値観と異なるものであれば、生みの苦しみを伴います。
頭から否定するのではなく、新しい経済活動を機会として正しく参入したいもの。
民泊はニューエコノミーの旗手か、デジタル・ディスラプターか?
あなたはどう考えますか?
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございます。