投資はトータルリターンを忘れるな 不動産投資の誰も言わない真実(8)
人生はわくわくとドキドキで、できている! サラリーマン上がりの運用相談専門FP やんつです。
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「誤解と錯覚」に満ちた不動産投資のホントを語る「不動産投資の誰も言わない真実シリーズ」第八回。前回に続き、賃貸併用住宅を取得されたばかりの30代男性Hさんの登場です。
Hさん:
「前回は出口の話が聞けて参考になりました。今回は、その続きということで楽しみにしてます。」
前回はインカムしか語られない業界の不思議と、売却のタイミングの話でしたね。今回は出口の重要性を理解するために、トータルリターンの話をさせてください。
まず、賃貸業は売上逓減、コスト逓増のビジネスだということを思い出してください。
つまり物件購入後、時間と共に売上は減っていき、コストは増えていくということです。
建物の老朽化と共に家賃は下がり、空室率は上がっていきます。そして、修繕費は増えていくわけです。
これを見てください。
■賃貸業のインカム収支カーブ
これは「ほったらかし投資術の甘い罠」で取り上げた、区分マンションを買った時の毎年のCFと累積のCFを時系列に30年分プロットしたものです。実際に販売されているもので試算してみました。
販売条件
・物件価格 2130万円
・借入金額 1900万円
・借入期間 30年
・借入金利 2.0%
・家賃 9.3万円(表面利回り5.2%)
・管理費等 1.3万円(修繕積立含む)
その他の条件
・家賃下落 30年後85%(都内なので下落は少な目)
・退去による修繕 5回
・設備故障 2回
青線が単年度のCFで、赤線が累計のCFです。
約10年単位で大きく変化していくことが分かると思います。
・Ⅰ期→修繕も無く、順調にCFが積み上がる時期
・Ⅱ期→修繕費の発生に連動して利益が上下する時期(修繕発生時にはキャッシュアウトする)
・Ⅲ期→家賃下落と空室の増加によりキャッシュアウトが常態化する時期
これは新築の場合の試算ですが、中古の場合はⅠ期がなくⅡ期、Ⅲ期だけになる訳です。
また中古は、安く購入できるため損益分岐のゼロラインが下がり、累積CFはジグザグしながらもしばらくは上がっていきます。
実際には家賃下落や稼働率低下をここまで放置することはなく、Ⅲ期にはリフォーム等で収益改善を図ります。ただその分、今度は追加資金の回収に時間がかかることになります。
こうして、長期的には修繕費を投下・回収しながら、コツコツとCFを積み上げるのが賃貸業というビジネスだということが分かってもらえると思います。
長期的に均していくと8%程度の利回りに収斂するというのが実際のところです。
Hさん:
「そうなんですか。不動産投資って、もっと利回りの高いものかと思ってました。」
■不動産投資のトータルリターン
(5)で話したようにローンでのレバレッジ使うとか、運営を上手くやるとか色々ありますが、スタート時のCFが一番大きいんです。
ここを皆さん勘違いしています。ずっと儲かり続けると錯覚するんです。
インカムだけをみて語っているのも問題です。
まあ、前回話したように「業界が勘違いさせている」と言ってもいいかもしれませんが。
利回りの高いものは郊外で(空室、流動性の)リスクも高い。
リスクの低い都内は利回りも低く、インカムだけでは資産拡大には向かないんです。
都内物件は価値下落の低さによる資産性に注目した投資になります。
どちらがいいという訳ではなく、狙いが異なるということです。
ここで投資の基本
トータルリターン=インカムゲイン+キャピタルゲイン
を思い出してください。
この図から読み取れる、インカムを最大化しつつキャピタルも最大化する方法はどうなりますか?
Hさん:
「Ⅲ期には累計のCFが下がるから…。うーん??」
この図はインカムだけのプロットです。とすると、インカムが下がる前に市況のいい時に高値で売る! これがトータルリターンを最大化するポイントになります。
つまりCFが積み上がっているうちに、市況の良い時に高く売れば、インカムもキャピタルも取れてトータルが最大化できる訳です。
わたしが、新築を5~10年で売り抜けましょう、といつも話している理由はここにあります。
■売却額の試算(収益還元評価)
ここで、売却時の売値算出に関連する収益還元評価(直接法)について説明しておきますね。
収益還元評価とは不動産の価格を求める手法の一つで、その物件が生み出す利益に着目して価値を算出する方法です。一定期間の純利益から還元利回りで割って求めます。
不動産では純利益を事前に求めることが困難なことから、家賃収入を利回りで割って求めることが多いです。還元利回りには市場の期待収益率(キャップレート)を使います。
例えば
・満室想定家賃 400万円
・期待収益率 8.0% なら
収益還元評価=400 ÷ 0.08= 5000万円 です。
Hさんの持っているアパートの家賃収入が400万円/年だとしたら、8%の利回りで売れる場合、その価値は5000万円だということです。
ただ、この期待収益率は市況や立地、老朽度合等によっても変化します。
アパートの立地が悪く、市況も悪くて10%利回りでしか売れない時は、
収益還元評価=400 ÷ 0.10= 4000万円 にしかなりません。
この差が大きいので、保有し続ける場合でも、絶えず自身の物件の評価をしましょう、と言ってます。
Hさん:
「なるほど、この金額とインカムのトータルを意識するということですね! 全然、考えてませんでした…。」
これは収益還元評価の直接法という計算法ですが、もう一つDCF法というのもあります。
これはもう少し厳密で、将来得られる利益と売却益を合計して、さらに割引現在価値を算出するものです。
投資前に物件の割安度を算出する時に使います。
ご興味があれば、調べてみてください。
Hさん:
「割引ですか…。なんだか難しそうですね。頑張って勉強してみます。」
次回は、このトータルリターンを考えながらケーススタディでもう少しご説明させていただきますね。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回も出口の話が続きます。